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 ■ 事件簿詳細
 闇に葬られた出会い系猟奇殺人
出会い系が生んだ凶事、携帯のもつ護身の吉事。携帯という老若男女がもつ便利な端末は、ときに残酷な事件を生む。ダメな男にひかれる、優しい女。サラ金から逃げるような生き方を大人の魅力とカン違いしたのが運のつき。


 この事件はあまりにも残酷過ぎて、警察の手により隠蔽された事件のひとつだ。世の中には公表されない方がいい情報もあるのだ。2002年5月末京都府で女子大生の遺体が発見された。被害者とメル友の関係にあった25歳の男が逮捕された。さらに、6月中旬に絞殺死体で発見されたOLの事件にも関与していると見られ、取り調べが続いている。

容疑者の男は、サラ金から200万ほどの借金があり、両被害者のバッグを質入れしている。殺害された女子大生は容疑者の男のことを「全くもって面白くない人」と友人に話していた。警察はこの事件の犯行の動機と関連も調べ、すべてを公表する事を恐れた。
 女子大生の木下あゆ(仮名)さん・22歳は新潟からこの春上京し、一人暮らしを始めたばかりだった。親もとから離れ、思いきり一人の時間を楽しんでいた。合コンにも参加し遊びまくっていた。意気込んで始めた家庭教師のバイトも遊びの方が面白くて面倒になり、早々に辞めてしまった。親からの仕送りをたよりに生きていたのだ。
幸い一人っ子だったため、親も過保護になり、電話があればぶつぶつ文句をいいながらも仕送りの金額を増やしていっていた。

 お金のために始めた出会い系にハマッていった。ただなんとなくヒマな時間をつぶせればいいという程度の気持ちだった。合コンに飽きていたというのも理由のひとつかもしれない。刺激がほしかった。そんなとき自分を殺した男・加藤茂夫(仮名)25歳と出会う。ほかの脂ぎった感じのメールと違い軽く、そして陰があった。これが大人の魅力なんだとあゆさんはカン違いをしてしまったのだ。オレオレ的な主張も、2万でどう? などの直接的な誘いの表現もなく、なんともペシミスティックな内容のメール。

 悪ぶっている男になぜかひかれてしまう女というのは年代を問わずに存在する。あゆさんもそうだった。借金で首がまわらない、今すぐにでもこの世からいなくなりたい…みたいな暗いメールに、あゆさんはこの人をどうにか立ち直らせてあげたいと自分から加藤に声をかけた。友達からは、ダメな男に決まっているからやめろと会うことを止められたが、世の中をまだ知らないあゆさんは是が非でも会おうとした。

 車で迎えに来た加藤は、暗いメールの内容とは違いこざっぱりとしていた。チェーンの眼鏡屋で働いていた。どうも仕事を転々と変えているらしい。理由はサラ金からの借金。正直この話をされたとき、バイト先の友人がとめるのを素直に聞いていればよかったと友人の一人にメールしている。スロットが大好きで、負けが込んでもどんどん際限なく金をつぎ込み、ひとつのサラ金の限度額を越えるとほかから借りて返済して…といったことの繰り返しだったという。

 加藤は金がないくせに、豪華なことが好きだった。食事もファミレスとかではなく、予約が必要なレストランで取り、ホテルもラブホではなくシティホテルを利用した。贅沢の嫌いな人間はいない。あゆさんも、加藤の暗い話に飽きていたが、おいしい食事と心地よいベッドで眠ることは好きだった。また、加藤はあゆさんが綺麗に着飾ることも好きだった。ブランド物のバッグ、アクセサリーを買い与えた。今にして思えばこれらはすべて、加藤自身への投資だったのだが。

 ある日、加藤とあゆさんは夜景の綺麗な山にドライブに行った。いつもとなんら変わりのないデートだった。車を降りて肩をならべ、いつものように加藤が金回りがよくない、最近ツイていないなどと暗い話を始めた。いい加減飽き飽きしていたあゆさんは、大きなため息をついてしまう。これが加藤のカンに触った。
 この日、勤め先の店に取り立ての電話がしつこくかかってきており、加藤はイライラしていた。もの凄い勢いで車に戻ったかと思うと、あゆさんの腹部に果物ナイフをさし、ぐりぐりと中をこねくりまわした。断末魔が山に木霊した。

 加藤は自分自身がイヤになっていた。働かないでいい生活なんであるワケない。なのにギャンブルに手を出し、借金をくり返してしまう。そのたびに果物ナイフを自分の腹にあて、死のうとする。弱い加藤は死にきれず、血玉だけが腹から出る。その自分の血液を指ですくって舐めるとスッとする。なぜかその瞬間だけ借金苦も忘れ、幸福な気分になれた。その自分をなだめるオモチャが、あゆさんを死にいたらしめた。だからナイフからは微量の加藤の血液も検出された。

 …とそのとき、あゆさんの携帯電話が鳴った。すでに生きたえたあゆさんを前に呆然としていた加藤は携帯のコール音で現実にひきもどされる。自分のしてしまったことが怖くなり、また携帯の音が怖くてあゆさんの携帯をメッタ刺しにしたあゆさんの腹に突っ込み、ガムテープで傷口を塞いだ。そして山の中に放置した。あゆさんの腹からは携帯がコールし続けていた。


 なぜあんな事をしてしまったのか分からない。加藤は出会い系で女のコをひっかけてはコマしていた。女なんて軽い。女によって自分の雰囲気を変えれば簡単にセックス出来た。自分を偽れば偽るほど女がついてきた。こんなくだらない道具、なくなってしまえばいい、そう思った。だから腹の中に埋め込んでやった。車の中にあったガムテープでふさぐと、なんかスッキリした。ドクドクとガムテープの周りから血があふれ出ていたが、かえってそれが面白くてしようがなかった。ああ、買った。なぜかその時、加藤はそう思った。自分が猟奇殺人をしているなどという意識はなかったのだ。

 一人っ子のあゆさん、親からの電話に出ないということは滅多になかった。2日間も続けて電話に出ないということで、あゆさんの両親は警察に捜査を申し出た。こういったたぐいの失踪事件は腐るほどある。あゆさんの捜査も手つかずのままだった。両親はあゆさんの持つ携帯の会社に連絡を取り、GPSであゆさんの居場所を探してもらう。京都府の山中、住居がひとつもない場所で反応が出る。充電をしてあったことが幸いして、あゆさんの遺体は容易に発見された。

 京都地裁は被告に無期懲役を求刑。被告は殺人の事実は認めているが、強盗目的を否定している。刑法によれば、殺人は「死刑または無期もしくは3年以上の懲役に処する」。ただし強盗が殺人をすれば、「死刑または無期懲役に処する」とある。この男の最後のあがきを法律はどうさばくのか。

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